先日友人と話していて、一つの結論にたどり着いた。
「買うという行為は、高度に資本主義が発達した社会での、民主的主張になりえるのだ」。
例えば地球上の全ての人々が明日からクレジットカードを使うのを止めたら、明後日には世界大恐慌が待っている。というのは極論だが(なぜならクレジットカードを所有していない人間の方が、この富の集中が必然化された資本主義社会ではマジョリティだから)、われわれが何気なく行う日常生活の購買行為が、いかにマクロなレヴェルで集束されていくかという現象を見るのが、非常に興味深い。
発端となったのは、その友人がマクロビオティックレストランのシェフをしている背景にある。彼が日本国「独自」であるそのアートを学んだ場所は、なぜかニューヨークだったが。そして現在、日本国のとあるエリア、IK袋で小規模な商業展開をしている友人は鍛錬と勉強を重ね、Mr.KUSHIの理論と実践に基づいたメニューを展開させている。マクロバイオティックは簡単に言えば、からだと食材を陰と陽の性質になぞらえ、その質性のバランスを食事を通じて保ち身体の健康をキープするという考えに基づいている。(かなり適当でごめんなさい)。プロとして毎日病気に悩む人々や、からだにいいものを摂取したい願望を持つお客様のニーズに応えるべく日々研究の毎日を友人は送っておりました。所謂クリシェな「スピリチュアル」マーケットの需要ともタイミングが重なって、お店は結構繁盛してたとのこと。
でもね、からだに良い食事を提供するプロの彼が愛して止まないものは、ビッグマックなの。
ある日彼は、お店が入っている駅ビルの地下にあるマックで大好きなビックマックをお昼休みに食べていたの。ラージサイズの(ダイエットではない)コーラを吸引しながら、塩化ナトリウムまみれのフレンチフライで指を油とケミカルまみれにさせて。彼にとっては、至福のお昼休み。人間工学に基づいて作られた、回転率をマキシマムに上げるテーブルと席の配置。通行人にも食欲を喚起させたいから、勿論店舗はガラス張り。彼が薄いピクルスをケチャップまみれの指で外してふと眼を上げると、若いカップルがガラス越しに立っていたの。歌舞伎の女形のようにひょろりとした顔色の白い男と、黒いパンツスーツスーツで身を固めた眼鏡の女。彼は先ほどメインの豆の煮物を出したときにご挨拶させていただいたあのカップルだ、と思い出しながらも相変わらず肉なんだかパンなんだか解らないビックマックをを咀嚼し、(ダイエットではない)コーラで流し込む。ガラス越しの男女がなにか話しているが、彼には聴こえない。指に絡みついた塩化ナトリウムをつるつるしたペーパーナプキンで彼は拭う。女はきっと眼を上げ、なにかを決心したように歩き始める。ガラスの自動ドアが開き、不自然に甲高いマニュアルどおりの声が、店内に響き渡る。女の高らかなヒールの足音がリノリウムの床に反響しながら、彼に近づいてくる。彼が(ダイエットではない)コーラを吸い込んでいると、
「すみません」
と女が云う。振り返ると、先ほど食後のチコリ入りコーヒーにひどく歓んでいたお客様の女がいた。
「はい?」
口元に付着したケチャップをペーパーナプキンで拭いながら、彼は応える。
一瞬、酸素が薄くなった気がした。女が次の言葉をつなぐ為に吸い込んだ呼吸があまりにも深すぎて。
「あなた、マクロバイオティックやっているシェフなのに、マック食べていて、どうなのよ?」
-で、あなたはどう応えたの?
-体が欲しがるものに素直でいることが、健康のためだからって。
-それで、そのスーツ女は納得した?
-ううん。身体がそんなジャンクを欲しがること自体、あなたの身体がジャンクな証拠だって。そんな人がマクロバイオティックのシェフやっているんなんて、信じられないって、静かではあったけどひどく怒ってたよ。
-職業と私生活をごたまぜにするのは、近代の病理よね。実は子供が大嫌いな保母さんだって世界には沢山いるもの。
-なんだかひどく怒っていてさ、結構頻繁に来る常連さんだったんだけどね。まあ、連れの男がなだめて、ぶつぶつ云いながらマックを出て行ったよ、その女。
-大変だったね。お昼休みにまでそんなお客様のお世話するなんて。
-ううん、大丈夫。結局ちいさなことで怒るのは肝臓の働きが鈍って、陽が強い状態なんだ。きんぴらごぼうとごましおご飯食べたら、すぐそんなのなくなるよ。マクロバイオティック的に云えば。
という友人と話をしていたら、表記「買うか飼われるか」というテーゼが生まれてきたのだ。
枕が長くなってしまった。今日はここまで。本編はまた今度にします。
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